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4141メーリングリストの産物ともいえるハツオくんの名創作文に、当写真館主が写真を添えて掲載させていただきます。


ハツオ@綴り方教室

先日寝床でふと思いついたことをいろいろ創作して書いてみました。
そのほとんどが創作ですので小説としました。
ちょっぴり長いので、暇な時にでも読んで笑ってやってください。


〜ハツオくんの自転車通学〜

「キャア、やめて!」
「ホレホレ、これどうじゃ」
「コラ! お姉ちゃんに悪戯したらいかん」
と山崎初夫は息子の竜馬(タツマ)を叱った。
初夫は川原で戯れている幼い二人を眺めながら、
この鏡川の風景もすっかり変わったなあと、ため息を漏らした。
以前はこの川にはあふれんばかりの水があり、のどかな緑の田園地帯が
広がって...と昔の風景を思い浮かべ始めた。



チリチリ〜ン。
ハツオくんは今日も颯爽と自転車を走らせていた。
高一の彼は、三つの通学経路をもっていた。
一つは今ペダルを漕いでいる鏡川の土手づたいである。
もう一つは、彼の家のある蛍橋からチンチン電車に添って走る道である。
最後の一つは、母から通ってはいけないといわれている内緒の路である。
ハツオくんは、その日の気分などによってこれらの道を使い分けていた。
その日のハツオは天気も気分も良かったので、土手縁のコ−スを選んだ。
朝の風は爽やかで、ススキの穂も心地よさそうに揺らいでいた。
このコ−スの楽しみは、川向こうにある女子高の生徒とすれ違うことである。
今日もワイワイと言いながら女子高生の集団が向こうの方からやって来た。
ハツオは、彼女らとすれ違いざまに、チリチリ〜ンとベルを鳴らす。
彼女らは決まって「ワ〜」と言う。そしてチラッと目が合う。
その瞬間に彼は思いっきりペダルを踏む。
この瞬間がたまらないのである。
そしてこの時、腕の白線がちょっぴり誇らしげであった。

帰路はおおむね電車通りを選んでいた。
この道沿いにある商店などを眺めながらのんびり帰るのが好きだった。



早朝の補習授業に呼び出された時は、「内緒の路」を通ることが多かった。
その路は電車道から一つ裏の通りで、玉水町と呼ばれていた。
それは後で、宮尾登美子の小説「陽輝楼」で知ったことであるが、
陽輝楼より格下の花街であったそうだ。
花街であったとしても早朝の街は何の変哲もない。
だが、ハツオはそこを通るだけで何かワクワクするのであった。
その気分が、補習に呼び出されたという重苦しい気分を忘れさせるのである。
補習のあったある日、ハツオはその路を走っていた。
柳の木がある小川を挟んで、店は並んでいるが、早朝であるので、
どの店も雨戸が閉まっていて、街は静まりかえっていた。
朝もやが立ちこめた冷やりとした空気は眠気覚ましになんとも心地よかった。
自転車を漕ぐ先の方で、店の戸が開く音がした。
背広を着た紳士がややうつむきかげんで出てきた。
その後からぼさぼさの髪の毛を無造作に束ねた襦袢姿の女が従った。
その女は、「旦那さん、また来てね」と紳士の後ろ姿に声を掛けた。
その男は早足で、背中を丸めたまま振り返りもしなかった。
ハツオはペダルに力を入れて、その男を抜き去った。
その抜き去る瞬間に「ヒュ−、ヒュ−」とハツオは男をからかった。
大人をからかったという快感と、大人の行為を想像して体が熱くなるのを
感じた。



このような偶然を目撃した日は、その帰りもまたその路を通りたくなる。
夕方のその街は、朝とは違い華やかであった。
華やかといっても、ピンクや紫色のネオンの光と店の前に佇む厚化粧した女の
派手な服装がなんともいえない淫靡さをかもし出していた。
ハツオは、うつむきかげんに恥ずかしそうに、ただ黙って立っている初心そうな
若い女が好きであったが、しかしそんな女はめったにいない。
多くは厚化粧で通り客に愛想良く声を掛けてはいるがあつかましそうな女や、
タバコをふかせながら男を漁るような目つきで突っ立っている女であった。
そんな中を通り抜けるのがハツオにとってはちょっぴりスリルでもあった。
声を掛けられたらどうしよう、「金がない」といえばいいのか、それとも...
と、バカな想像をしている時、
「おにいさん、ちょっと」とまさに声を掛けられた。
はっとして振り返るとそこに、ハツオくん好みの女が立っていた。
ハツオは一瞬どうしようかと、頭の中がパニック状態になったが、
「おにいさん、カバンを落としましたよ」
という声に、一気に血が引くのを感じた。
ハツオは自転車を止め、ペコリと頭を下げカバンを受け取ると一目散に走った。
ペダルを漕ぎながら、何でオレが逃げなければならないんだ?
バカだなァ、ちゃんと「有難う」と言って、
「今度お礼をしたいので、お名前を教えてください」とか何とか言っておけば、
それがきっかけとなって、仲良く慣れたかも知れないのに、もしそうなったら
どこで会うことになるだろうか?
オレが店に行くには金がないし...。
そんな事は彼女にも分かっているので、彼女の方が店を抜け出して来て
どこかの喫茶店で落ち合うことになるのか。その後は...。
などといろいろ想像していたら家に着いた。
「ただいま〜」
と言ったら、
「お帰り」
と奥の方から母が出てきた。
なんだか悪い事をしたような気分になり母とは目を合わさないようにして、
そのまま2階の自分の勉強部屋に入っていった。
カバンを机の上に放り投げ、畳の上に大の字になって寝転がり、先ほどの
彼女との出会いを思い出し、その続きを空想するのであった。
こりゃぁ、ハツオくんは勉強できないはずだ。



次の日は学校が休みであった。
ハツオは、そういう日の午後は鏡川に出かけ、誰もいない川原で、
大声で歌うのが好きであった。
「風に吹かれた花びらを...十七歳のこの胸にしまっておいた思い出を〜」
ハツオくんは足の長いカッコいい西郷輝彦に憧れていたのです。
へたくそだが本人だけは悦にいって歌っていたら、川辺にしゃがんでいる
和服の女性の後姿が目に止まった。
妙に気になったハツオは、歌を止め静かに近づいていった。
その横顔をみてはっとした。
その女性はなんと昨日カバンを拾ってくれた人ではないか。
ハツオは運命を直感した。
天は我々を引き合わそうとしているのだ!
このチャンスを今度こそ逃してはならない。
ハツオは高鳴る胸を押さえて、何か言おうと思うのだが、ただ焦るばかり。
落ち着いてと自分に言い聞かせて、意を決して言った。
「コッ、こんにちは」
女はビックリして振り返った。
彼はペコリと頭を下げた。
女は怪訝な顔をした。
彼はてっきり「あ〜ら、昨日の学生さん」と言ってくれるものと期待していた
ので拍子抜けした。そこで思い出させなくてはと考え、
「昨日はカバン、ありがとうございました」と言った。
女はきょとんとしたような顔をしていたが、暫らく後、
「ああ、あの白線の制服の学生さん?」
「ハッはい、そうです」と焦って答えた。
ハツオは、あの白線は目立つもんなあと、白線の威力をまたしても感じた。
しかし、会話はそれだけで途絶えてしまい、沈黙が流れ、女は水辺に目を
落としてしまった。
彼はまた焦った。会話を続けなければいけない、しかし、何を話してたらいい
のか見つからない。ハツオはとっさに、
「お仕事は楽しいですか?」と言ってしまった。
女はだた黙って背を向けたままだった。
ハツオは、なんてバカなことを聞いたんだと恥ずかしくなり、顔面が熱くなる
のを感じた。
女は水辺に目を落としたまま、おもむろに答えた。
「学生さんは、お勉強楽しいの?」
「いいえ、楽しくありません」
とやや緊張ぎみにハツオは返事した。彼女は、
「そうねぇ、勉強がよくできた人もそうでない人も、またえらい人もそうでない
人も、男はみ〜んなスケベ」
と言って振り返り、ハツオの顔を見た瞬間、
「や〜だ学生さん、顔が真っ赤よ。何を想像しているの。学生さんもスケベね」
といって笑った。彼はますます赤くなった。
そしてまた沈黙が流れた。
「あら、わたしもうお店に戻らなくちゃ」
と言って、彼女は勢いよく立ちあがった。
そして着物の裾を払い、小走りに土手の方に向かって行った。
女は一度も振り返らなかった。
ハツオくんはただ呆然とその女の後姿を見送っていた。



ハツオは次の日の帰り道もあの運命の女に会えると思って玉水町を走った。
しかし、その女は見つからなかった。
彼はまた次の日も自転車を走らせた。
しかしまた会えなかった。
ハツオは考えた。
彼女は風邪を引いたのだろうか?
しかし、昨日はそんな様子はなかった。
だとすると、どこかの金持ちの旦那に身請けされたのであろうか?
そうかも知れない。
そう思えば、昨日の彼女の顔はなんだか愁いを含んでいたなあ。
彼女は本当は、オレにその事を打ち明けたかったのだ。
それなのにオレは、バカな事を聞くだけで...。
もしその事が分かっていれば、二人は思わぬ展開に...。
そういえば、何も告げられずに帰る彼女の後姿は淋しそうだったなあ。
もしかしたら、一度も振り返らなかったのは、泣いていたのかも知れない。
だからオレに、さよならを言えなかったのだ。
なんてオレは鈍感なんだろう。
オレは男だから自分の方からもっと積極的振舞わなければならなかったなあ。
.....
などとハツオくんは自分に都合のよいように空想にふけってたら、
何処からか、
「パパ、もう帰ろうよ〜」
という声が聞こえた。
ふと我に返った初夫は、その声が息子の竜馬であったことに気づいた。
二人の姉弟は川原での遊びに飽きて、もう帰りたいという素振をしていた。
鏡川にはもう夕闇が迫っていたのだ。
初夫が見上げた西の空には、雲も赤くはにかんでいた。(完)

ハツオ@芸術の秋しました

前に書いたように、千秋くんの絵画鑑賞につられて、ふと思い出し、
「ハツオくんの自転車通学」の挿絵を自分で描いてみました。
その絵を添付しましたので、また笑って見てやってください。

その絵のイメ−ジは、映画で言えば、
・・・・・・・・・・
初夫が見や上げた西の空には、雲も赤くはにかんでいました(完)

の後、エンディング・テ−マが流れ、そのバックに
初夫が鏡川の土手を子供の手を引きながら、真っ赤に彩られた夕焼けの中を
家路に向かっている
というシ−ンです。

葉詳明(ようしょうめい、ただし、しょうの漢字は違う)風に描いてみたが・・・?
??



<追伸>
今は玉水町はどうなっているのかなあ?
玉水町は確か電車通りの五町目あたりから入った裏通りだったよね。
誰か知っちゅう?
電車はまだ走っているのかな?

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